資金繰り
取引先が飛んだら、いくら失う? 与信のエクスポージャーと貸倒れの影響
「この取引先には、いくらまで売っていいのか」。この問いに公的な答えはありません。中小企業庁・中小企業基盤整備機構・経済産業省・日本政策金融公庫・金融庁のいずれの資料にも、与信限度額の算式は見当たりませんでした。ですのでこのシミュレーターは、限度額を判定しません。代わりに、いまその取引先にどれだけの金額を預けている状態なのか(エクスポージャー)を出し、それが焦げ付いた場合に、失う現金・取り戻すのに必要な追加売上・自社の純資産の何%が消えるのかを計算します。あわせて、貸倒損失として損金にできるかの切り分け、貸倒引当金の繰入限度額、そして自社が支払う側に立ったときの取適法(旧・下請法)の60日ルールと遅延利息も確認できます。限度額をいくらに置くかは、この材料をご覧になったうえでご判断ください。
無料・登録不要/2026-08-13 時点の公的データで計算
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計算方法の概要
- 売掛債権の残高見込み = 取引先への月間売上高 × 回収サイト(月)
- エクスポージャー = 売掛債権の残高見込み + 受注残・仕掛中の金額
- 焦げ付いた場合に失う現金 = エクスポージャー(利益ではなく現金がそのまま消えます)
- 取り戻すのに必要な追加売上 = 貸倒損失額 ÷ 粗利率
- 自社の年間利益の何ヶ月分か = 貸倒損失額 ÷(年間営業利益 ÷ 12)
- 純資産の毀損率 = 貸倒損失額 ÷ 純資産
- 税効果を差し引いた最終的な毀損額 = 貸倒損失額 −(貸倒損失額 × 法人実効税率)
- 貸倒引当金の繰入限度額 =(期末の一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額 − 実質的に債権とみられない部分の金額)× 法定繰入率
- 取適法の支払期日の上限 = 給付を受領した日を1日目として60日目。締め日からの起算ではありません。
- 遅延利息 = 未払金額 × 14.6% × 遅延日数 ÷ 365。遅延日数は「受領日から起算して60日を経過した日」から支払日までの日数です。
計算の前提条件
- 回収サイトは、締め日から入金日までを含めた期間(月)で入力してください。月末締め翌月末払いなら約2ヶ月です。
- 売掛金は消費税込みで計上されるため、取引先への月間売上高は税込で入力すると実際の残高に近くなります。
- エクスポージャーは、正常に取引を続けた場合に積み上がる残高の見込み額です。実際の残高は入金のタイミングによって上下します。
- 焦げ付いた場合の試算は、エクスポージャーの全額が回収できなくなった場合を前提としています。一部だけ回収できる場合は詳細分析の回収率別の表をご覧ください。
- 税効果は「貸倒損失額 × 法人実効税率」で概算しています。実際には、損金算入できるだけの所得がなければ、その期に税負担は減りません(欠損金の繰越控除で将来に繰り延べられます)。
- 貸倒れに係る消費税額の控除(消費税法第39条)は、本試算に含めていません。課税売上に係る売掛債権が貸し倒れた場合は、別に控除の定めがあります。
- 貸倒引当金の繰入限度額は法定繰入率による計算です。貸倒実績率による計算、個別評価金銭債権に係る繰入額は含めていません。
- 手形払いが支払遅延に該当するかの判定には、給付を受領した日を用いています。
- 取適法の適用対象かどうか(資本金・従業員数の区分)は判定していません。適用対象外の取引では遅延利息の支払義務は生じません。
- 金額はすべて概算です。1円単位の正確な税額・引当額は決算書と税務申告書に基づいて算定してください。
使用料率・出典
- 与信限度額の考え方(公的な算式は存在しない)算式なし・定性的な判断適用開始日: 2020-04-01/最終確認日: 2026-08-13同ページが挙げる留意点は2つです。(1)取引の種類・性格によるリスク(不慣れな商品の取引、資金繰り目的の金融取引の疑いがあるもの、回収期間の長い取引はリスクが大きい)、(2)自社の貸し倒れ負担能力(収益力が高いほど、余裕資金が多いほど許容できる額は大きい)。
- 貸倒損失の3類型9-6-1 法律上/9-6-2 事実上/9-6-3 形式上適用開始日: 2010-06-30/最終確認日: 2026-08-139-6-3(1)の起算日は、取引停止日・最後の弁済期・最後の弁済日のうち最も遅い日です。そこから1年以上経過している必要があります。
- 貸倒引当金の法定繰入率(中小法人等の特例)卸小売10/製造8/金融保険3/割賦7/その他6(1000分率)適用開始日: 2021-04-01/最終確認日: 2026-08-13根拠は法人税法52条、同施行令96条、租税特別措置法57条の9、同施行令33条の7です。割賦販売小売業等の7/1000は、令和3年4月1日前に開始する事業年度分については13/1000でした。
- 中小受託取引適正化法(取適法・旧下請法)の支払期日と遅延利息受領日から60日以内・年14.6%適用開始日: 2026-01-01/最終確認日: 2026-08-13遅延利息の年14.6%は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」(令和七年公正取引委員会規則第九号)で定められています。旧規則(昭和三十七年公正取引委員会規則第一号)は全部改正により廃止されましたが、率は年14.6%のまま変わっていません。
よくあるご質問
与信限度額は、純資産の何%までに抑えるべきですか?
その基準は公的な資料に見当たりませんでした。中小企業庁・中小企業基盤整備機構・経済産業省・日本政策金融公庫・金融庁を横断して確認しましたが、与信限度額の算定基準や算式を示す資料はありませんでした。中小企業基盤整備機構のJ-Net21は、与信限度は「取引の内容、取引先の信用状況、これまでの取引実績、自社の貸し倒れ負担能力などを総合的に勘案して決める」と定性的に述べたうえで、「自社に合った算出計算方法や適切な金額を見つけるには、試行錯誤を繰り返すことになる」と明記しています。標準的な算式が存在しないことを、公的機関自身が認めている状態です。なお「自己資本の◯%まで」という形の限度規制は銀行法13条の大口信用供与等規制として実在しますが、これは銀行の健全性規制であり、事業会社の売掛与信には適用されません。根拠として転用することはできません。
「月商×回収サイト」という計算は間違いなのですか?
計算そのものは正しく、限度額の「基準」として使うのが誤りです。月商に回収サイトを掛けた金額は、正常に取引を続けた場合に積み上がる売掛債権の残高であり、いま実際にどれだけの金額を相手に預けている状態なのかを表します。これはエクスポージャー(さらされている金額)の実額であって、「ここまでなら安全」という水準ではありません。受注残や仕掛かり中の案件があれば、それも将来の債権として加えて考える必要があります。本シミュレーターはこの金額を出したうえで、それが飛んだときのインパクトを計算します。
売掛金が回収できなくなったら、貸倒損失として処理できますか?
法人税基本通達に3つの類型があり、それぞれ要件が違います。9-6-1(法律上の貸倒れ)は更生計画・再生計画・特別清算の協定の認可などで債権が切り捨てられた場合で、金銭債権全般が対象、損金経理は不要で申告調整でも損金算入できます。9-6-2(事実上の貸倒れ)は債務者の資産状況・支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合で、担保物があるときはその処分後であること、そして損金経理が必須です。一部でも回収できる状態では使えません。9-6-3(形式上の貸倒れ)は取引停止から1年以上経過した場合などで、対象は売掛債権に限られ(貸付金は含まれません)、備忘価額として1円を残して損金経理します。この1年経過の取扱いは、継続的な取引を行っていた債務者について資産状況等が悪化したために取引を停止した場合をいい、たまたま1回だけ取引した相手には使えません。本シミュレーターは、質問に答えていただくことでどの類型に当てはまりうるかを切り分けます。
貸倒引当金はどの会社でも積めますか?
積めません。貸倒引当金を繰り入れられるのは、期末資本金1億円以下の普通法人(資本金5億円以上の大法人に完全支配されている法人などを除く)、公益法人等・協同組合等、人格のない社団等、銀行・保険会社等に限られます。資本金1億円超の一般事業会社は繰り入れできません。また、繰入率についても、中小法人等は法定繰入率による特例を選べますが、過去3年の所得金額の年平均額が15億円を超える適用除外事業者は法定繰入率を使えず、貸倒実績率で計算することになります。法定繰入率は業種別で、卸売業・小売業(飲食店業・料理店業を含む)が10/1000、製造業が8/1000、金融業・保険業が3/1000、割賦販売小売業等が7/1000、それ以外が6/1000です。2つ以上の事業を兼営している場合は主たる事業の割合によります。
取引先への支払いは、締め日から60日以内でよいのですか?
起算点は締め日ではなく、給付を受領した日です。支払期日は、検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日(役務提供委託・特定運送委託の場合は役務の提供を受けた日)から起算して60日の期間内、かつできる限り短い期間内に定めなければなりません。「月末締め翌々月末払い」のような取り決めは、月初に納品を受けたものについて受領日から60日を超えることがあります。支払期日を定めなかったときは受領日が支払期日とみなされ、60日を超えて定めたときは受領日から起算して60日を経過した日の前日が支払期日とみなされます。なおこの法律は令和8年1月1日から改正・改称されており、かつての「下請法」は「中小受託取引適正化法(取適法)」に、「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」、「下請代金」は「製造委託等代金」になりました。支払期日を定める条文も2条の2から3条に変わっています。
支払いが遅れた場合の遅延利息は、いつから発生しますか?
約定の支払期日からではなく、給付を受領した日から起算して60日を経過した日からです。年率は14.6%で、遅延利息は「未払金額 × 14.6% × 遅延日数 ÷ 365」で計算します。注意が必要なのは起算点で、たとえば約定支払期日を受領日から30日後に定めていた場合でも、遅延利息の計算が始まるのは受領日から60日を経過した日からです。逆に、約定支払期日を受領日から90日後に定めていても、遅延利息は受領日から60日を経過した日から発生します。また令和8年1月1日以降は、代金の支払について手形を交付すること自体が一律に支払遅延に該当します。支払期日を超える満期の一括決済方式や電子記録債権も、原則として支払遅延の禁止に触れます。
取引先が飛ぶと、なぜ「利益」ではなく「現金」を失うのですか?
売掛金は、すでに商品や役務を渡して原価を払い終えたあとに残っている請求権だからです。回収できなくなると、売上として計上した金額がまるごと現金にならないまま消えます。粗利率20%の会社が100万円を焦がした場合、それを取り戻すには500万円の追加売上が必要になります。粗利率が低い商売ほど、同じ金額の貸倒れを取り戻すのに大きな売上が要ります。本シミュレーターは、この「取り戻すのに必要な売上」と、自社の年間利益の何ヶ月分にあたるか、純資産の何%が毀損するかを並べて表示します。限度額をいくらに置くかを考えるときの材料としてお使いください。
PDFレポートには何が含まれますか?
画面では、エクスポージャーの実額、焦げ付いた場合に失う現金、取り戻すのに必要な追加売上、自社の年間利益の何ヶ月分か、純資産の毀損率、そして取適法の支払期日と遅延利息をご覧いただけます。さらに詳細分析とPDFレポートでは、貸倒損失の3類型(9-6-1/9-6-2/9-6-3)の要件を1つずつ照合した切り分け表、貸倒引当金の繰入限度額と税効果、税効果を差し引いた最終的な毀損額、回収率別(0%/25%/50%/75%)の損失シナリオ、回収サイトを前後させた場合のエクスポージャーの変化、そして社内の与信会議や金融機関への説明に使えるPDFレポートを提供します。
ご利用上の注意
- 本シミュレーターの結果は概算です。
- 与信限度額に公的な算式は存在しません。「取引先1社への与信は自社の純資産の10%まで」「月商×回収サイトを限度にする」といった算式が広く紹介されていますが、公的機関の資料に基準として示されているものを確認できませんでした。本シミュレーターは「あなたの限度額は◯◯円です」という判定を一切行いません。
- 「自己資本の◯%まで」という形の公的な限度規制は、銀行法13条の大口信用供与等規制として実在します。ただしこれは銀行・銀行グループの健全性を確保するための規制であって、一般の事業会社が取引先に与える売掛与信には適用されません。事業会社の与信限度の根拠として転用することはできません。
- 貸倒損失の3類型の判定は、入力いただいた事実関係を法人税基本通達9-6-1〜9-6-3の要件に当てはめた結果であり、税務上の判断そのものではありません。全額回収不能かどうか、継続的な取引に当たるかどうかといった事実認定は、最終的には個別に判断されます。必ず顧問税理士にご確認ください。
- 貸倒引当金を繰り入れられるかどうかは、期末資本金のほかに法人の種類によっても変わります。本シミュレーターは期末資本金1億円以下かどうか、大法人の完全支配下にあるかどうか、適用除外事業者かどうかのみで判定しています。
- 取適法(中小受託取引適正化法)の適用対象となる取引かどうかは、委託事業者と中小受託事業者の資本金または常時使用する従業員数の関係で決まります。本シミュレーターは適用対象かどうかを判定していません。
- 実際の与信判断・債権回収・税務処理にあたっては、顧問税理士、弁護士、取引信用保険や信用調査会社などの専門的な助言をご検討ください。